一庫ダムの洪水調節計画は、当初は100年に1回発生する規模の洪水に対応できるように、流入量が200m3/sを超えたときから洪水調節を開始し、最大放流量650m3/sまで増量させるものでした。しかし、管理開始直後の1983(昭和58)年9月の出水で、洪水調節計画に基づくダム操作を実施したものの、下流の銀橋上流左岸部を中心に多数の浸水被害が出ました。その後も1989(平成元)年、1999(平成11)にも浸水被害が生じたことを受け現状の河川整備の状況を踏まえ、2000(平成12)年に中小洪水等に調節効果が発揮できるような新しい洪水調節方式に変更しました
これによりダム下流河川の洪水被害を軽減していきましたが、その一方でダムの貯水容量が早く満杯になる可能性も併せ持っていました。
その後、ダム下流河川の整備が進み流下能力が向上したことから、2019(令和元)年6月に洪水調節時の放流量を150m3/秒から200m3/秒に変更しました。
年月日 | 原因 | 累計雨量 (mm) |
最大流入量 (m3/s) |
最大放流量 (m3/s) |
最高貯水位 (EL.m) |
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1 | 1983.9.27~30 | 台風10号 | 274 | 410.93 | 287.58 | 136.59 | グラフ |
2 | 1986.7.20~23 | 前線 | 124 | 251.41 | 212.12 | 135.70 | |
3 | 1989.9.3~4 | 前線 | 200 | 285.86 | 234.12 | 136.52 | |
4 | 1990.9.19~20 | 台風19号 | 139 | 244.40 | 197.53 | 131.66 | |
5 | 1997.8.5~6 | 前線 | 181 | 238.03 | 208.72 | 136.37 | |
6 | 1998.9.22~23 | 台風7号 | 162 | 258.36 | 23.53 | 134.22 | |
7 | 1999.6.29~7.1 | 前線 | 168 | 294.82 | 179.29 | 138.47 | |
8 | 2004.8.30~31 | 台風16号 | 95 | 191.30 | 20.80 | 132.62 | 資料 |
9 | 2004.10.20~21 | 台風23号 | 208 | 410.90 | 149.04 | 144.96 | 資料 |
10 | 2006.7.17~19 | 前線 | 190 | 166.42 | 149.57 | 136.78 | |
11 | 2013.9.15~16 | 台風18号 | 293 | 468.13 | 148.34 | 144.00 | 資料 |
12 | 2014.8.9~10 | 台風11号 | 282 | 439.79 | 146.11 | 142.80 | 資料 |
13 | 2014.8.16~17 | 前線 | 148 | 338.08 | 149.15 | 140.05 | 資料 |
14 | 2015.7.17~18 | 台風11号 | 231 | 312.70 | 149.88 | 139.26 | 資料 |
15 | 2016.9.18 | 前線 | 148 | 177.95 | 105.74 | 136.30 | 資料 |
16 | 2017.10.22~23 | 台風21号 | 209 | 251.33 | 149.78 | 137.72 | 資料 |
17 | 2018.7.5~8 | 前線 | 550.9 | 629.94 | 332.46 | 150.9 | 資料 |
18 | 2018.8.23~24 | 台風20号 | 173.5 | 388.98 | 72.62 | 136.63 | 資料 |
19 | 2018.9.4 | 台風21号 | 93.3 | 238.75 | 149.12 | 135.61 | 資料 |
20 | 2018.9.6~8 | 前線 | 174.4 | 542.51 | 149.88 | 139.74 | 資料 |
21 | 2020.7.5~8 | 前線 | 159.1 | 289.08 | 181.11 | 135.68 | 資料 |
22 | 2024.11.1~3 | 低気圧 | 130.8 | 314.01 | 0.71 | 133.69 | 資料 |
※「グラフ」をクリックするとハイドログラフを、「資料」をクリックすると、当時の記者発表資料をご覧いただけます。
※累計雨量は、一庫ダム流域平均総雨量、最高貯水位は一庫ダム貯水池最高貯水位。
※平成11年以前及び令和元年以降は200m3/s以上、平成12年~平成30年は150m3/s以上の流入量がある場合を洪水調節と定義。
■淀川水系猪名川の一庫ダム流域では、活発な梅雨前線の停滞により記録的な降雨が発生し、降り始めからの
総雨量は550.9mmを観測しました。この降雨により、ダムへの最大流入量は毎秒630立方メートルを記録し
ましたが、防災操作により、流入量の約76%(毎秒481立法メートル)を低減させ放流することにより、ダム
下流(多田院地点)の河川水位を75cm以上低減させました。もし、ダムが無かった場合には、洪水は堤防か
ら越水し、浸水被害が発生したものと想定されます。
■大量の洪水をため込みダムが満杯に近づいたことで、初めて緊急放流(異常洪水時防災操作)を行いました。
ダム放流の増量時は、既に下流河川の水位が低下傾向にあったことや、下流の河川整備が進んでいたことか
ら、顕著な浸水被害は発生しませんでした。
通常の洪水調節操作ではダムが満杯になると予測された場合、ダムに流れ込んだ量と等しくなるまで放流量を増加させる操作です。上流から流れてきた水量より多い水量をダムから流すことはありません。
ダムの能力を超える大雨が予測された場合に、ダムに貯まっている水の一部を事前に放流し、洪水調節容量を一時的に増やす操作です。より多くの洪水を貯め込むことができるため、ダムが満杯になるのを回避したり、満杯までの時間を遅らせることにつながり、ダム下流の浸水被害の軽減及び避難時間をかせぐことができます。
事前放流は、気象庁が発表する降雨予測をもとに判断し、洪水が予想される最大3日前から行います。
事前放流によるダムからの放流は、最大毎秒100㎥とし、多田院地点の河川水位が4.2m(水防団待機水位)未満となるように放流を行います。
○ 近年頻発している局地的大雨(ゲリラ豪雨)はどこでも起こりえます。
○ 猪名川本川上流にはダムはありません。(一庫大路次川合流点より上流の本川に降った雨はそのまま流れてきます。) また、一庫ダムの流域面積(115.1km2)は、猪名川全流域(383km2)の約3分の1です。
○ 一庫ダムの本来の計画は100年に1回規模の洪水に対応したものですが、現在は約30年に1回規模の洪水調節計画となっています。中小出水には効果がありますが、計画(約1/30)以上の洪水が来ると、緊急放流(異常洪水時防災操作)に移行するために、放流量を流入量にすりつける操作を行います。
→緊急放流(異常洪水時防災操作)とは
○ 現状では、猪名川流域は大洪水には対応できません。そのため、大雨の時には自治体等が出す情報に注意し指示に従うとともに、普段から避難経路の確認や防災グッズの準備をしておくことが重要です。
○ダムの上流で大雨が降り、ダムから流す水の量を増やす時(常用洪水吐きゲートから水を流す時)は、警報のサイレン・スピーカーを鳴らします。サイレンやスピーカーが鳴ったら、すぐ川から出ましょう。